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グレン・カーチス

水上機というものは、水に浮く為のフロートがある分、構造的にも空気抵抗などの点でもハンデが大きい。しかし、墜落しても陸地よりも安全(当時の飛行機はジャンプ程度だったので)と考えられたのか、実験する場所の問題などもあってか、しばし水上機が実験された。ボワザン兄弟やブレリオなど、いずれも満足に飛行できる飛行機は作れなかった。一応、フランスのアンリ・ファーブルという人物(昆虫記で有名なファーブルとは別人)が1910年3月28日にマルセイユ近くのベル湖で飛ばした、先尾翼式の水上機「イドラヴィオン」号が世界で初めての水上機とされている。高度約2mで6km程の飛行をした。何となくアメンボに翼をつけたような機体で、1年ほど実験を続けたが資金不足から開発を断念し、他の飛行機のためのフロート作りに転向してしまったという。最初の実用的な水上機はアメリカのカーチスが完成させた。
ライト兄弟とよく対比される人物にグレン・ハモンド・カーチスがいる。彼は1892年5月31日ニューヨーク州ハンモンズポートに生まれた。19才の時に地元の自動車の草レースで優勝したのをきっかけに、エンジンに興味を持つようになる。軽い空冷エンジンを設計したり、オートバイ工場などを経営したりしていて、1904年頃にはオートバイの速度記録を持っていたという。1906年、まだカーチスが航空を志す前に、ライト兄弟に手紙を書いた。「自分のエンジンがお役に立ちませんか?」ライト兄弟からは反応がなかった。ライト兄弟は自分達で飛行機を売るつもりだったので余計なパートナーはなるべく作りたくなかったようだ。その後、カーチスは電話の発明者グラハム・ベルの設立した航空実験協会にエンジンの専門家として迎えられる。しかし、行動的な性格のカーチスはやがて機体に関する知識も身に付け、ジューンバック号という飛行機を制作し、1908年7月4日には距離1.53kmを1分42秒で飛行した。これはアメリカでは最初の正式な記録員を伴った正式な記録で、アメリカで最初に1kmを飛んだという事でサイエンティフィック・アメリカン誌のトロフィを獲得した。カーチスはやがてヘリングと共同でヘリング・カーチス社を設立して飛行機を売り出す事にした。そこでライト兄弟と争う事になる。(ライト兄弟の衰退の項参照)
1909年ランス飛行大会では、「ゴールデン・フライヤー」号で20kmコースを15分50秒(平均時速76km/h)でブレリオにわずか6秒差で優勝し、ゴードン・ベネット・トロフィを獲得した。1910年11月14日にはカーチス機は弟子のエリーの操縦で、巡洋艦バーミンガムの特設飛行甲板(25m×8.5m)から発艦する事に成功し、翌1911年1月18日には巡洋艦ペンシルバニアの特設甲板(長さ36m)に着艦、再び発艦する事に成功した。甲板にはロープが貼られており、端には砂袋の錘りが取り付けてあって、着艦した機体を引っ掛けてて止める仕組みになっていた。この原理は今の空母にも油圧式で残っている。それより先の1910年5月1日、アルバニー市からニューヨークまでをハドソン河にそって距離228kmを飛行した。途中、2回の着陸したものの、飛行時間2時間50分、平均速度81km/hという当時としては最初の長距離野外飛行であった。その時の機体には河に不時着してもよいように非常用浮舟が取り付けてあった。その後、胴体下に中央フロート、翼端に小さなフロートを付けた機体を完成させ、1911年1月26日にサンフランシスコ湾で初めて離着水に成功した。A1型の名称で1911年7月1日、アメリカ海軍に納入され、これがアメリカ海軍第一号機となった。1911年2月23日には水上機に引上式の車輪を付け、世界最初の水陸両用機のデモを行ったり、1912年1月10日には胴体の部分が艇体になった世界最初の飛行艇を完成させ、「海軍航空の父」と呼ばれるようになる。
第一次世界大戦中に練習機として広く使われたカーチスJN-4ジェニーは、ソッピースのトーマス技師がカーチスの依頼を受けて設計したJ型と、カーチスの設計のN型を合体させたもので、JN型と呼ばれるようになった。JNの発音から「ジェニー」の愛称がつけられた。この機体は大戦が終ると安く民間に払い下げられたので、アメリカの巡業飛行士達が愛用し、アメリカ各地で飛行して、アメリカの空の風物詩になった。
ライトの名をつけた会社はその後、エンジン・メーカーとして成長していき、カーチスはエンジンからスタートしてやがて機体専門メーカーになっていったのは皮肉な結末だ。第二次大戦中にカーチスとライトは合併してカーチス・ライト社になったのも、また皮肉な運命ではあるが、ウィルバー・ライトもカーチスもその時には他界していた。

ファーブルの水上機

カーチス水上機
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