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航空史前(気球に至るまで)

古代人にとって、空を飛べるものは鳥か神様だけという世界だった。鳥が神格化されたり、神の使いとして活躍したりされた。エジプト神話のホルスは鷹であるし、女神アテネの聖鳥はフクロウである。サモトラケのニケ象(紀元前195年頃の作品)では女神自身に鳥の翼のようなものがついている姿で彫られていたり、古来、多くの神話で翼を持った天使は神の死者として考えられてきた。そのため、昔の人は空を人間が飛ぶ事は神に対する冒涜と考えられ、ギリシャ神話のパエトンや、イカロス、ペレロポンの話などで、空を飛んだ者は何らかの形で罰せられる事が多い。
しかし、空を飛びたいと思う人間の気持は古くからあり、翼を付けて飛んだとかそんな話はいくつも語り継がれたりしている。もっと信頼できそうな文書に飛行として記録に残されている話になると、いわゆる「タワー・ジャンパー」の記述になる。高い塔の上から、翼やら、パラシュートのようなものを付けて飛び下りるという原始的なものだが、多くの挑戦者は命を落とす事になる。サラセン人のアッバサ・バン・フィルナサは890年コルドバで墜死したという。イングランドのベネディクト派の修道士エルマーは1130年に塔から飛び降り、200ヤードの距離を飛んだが、墜落して足を砕いたという。
レオナルド・ダ・ビンチはいろんなものを考案したり、改良したりして有名な人物だが、しかし、彼の業績は航空の進歩には何の影響も与えなかった。彼のスケッチの多くは当時既に知られていたものの改良したアイデアが多く、しかもそのほとんどは模型による実験なども行われず、いわば机上の空論みたいなものだった。羽ばたき飛行に関する認識でも鳥の羽ばたきについて、間違った認識をしていた。それは無理のない事で、現代になって、高速度撮影が可能になって初めて開明された事で、そんな昔に鳥の飛行の謎が開明できるハズがなかった。
魔女も自由に空を飛べる術を身に付けた代表である。ホウキにまたがったり、中部アフリカなどでは丸い皿のような籠をパタパタさせて飛ぶという。中世の魔女狩りで拷問された魔女の自白などによると、その飛行術は、まず、3種類の軟膏を体に擦り込むという。成分には脂肪(人間の赤ん坊の脂肪が最適だとか)のほか、トリカブトやハシリドコロなどの毒物が含まれていた。トリカブトの毒は人体に吸収されると脈拍を不規則にし、ハシリドコロから抽出されるベラドンナは興奮と妄想をひき起こすもので、この軟膏を内股あたりや、陰部に擦り込んで呪文を唱えると飛行できたという。実際は一種のトランス状態に陥り、飛行した幻覚を見たり、フワっと宙に浮いたような感覚で飛行したように感じていたものだろう。魔女の自白によると飛行する時の呪文は「タウト・タウト・ア・タウト。スルーアウト・アンド・アバウト」だという。
単なる空想や、デタラメな話ではなく、現実の飛行に一歩近付いたのはイングランドのジョン・ウィルキンズ僧正である。1648年に出版した「数学的魔術」の中で、それまでただ闇雲だった飛行の世界を客観的に分析する事を試みた。その中で4番目に分類した「空飛ぶ馬車」について一番多くの関心をよせ、取り扱っていて、「空飛ぶ馬車は大きさと動力装置と重量が釣り合っている必要があり、大き過ぎても重過ぎてもいけない」と語っている。まだ動力装置が発明される以前にとてもスルドイ指摘をしている。
飛行まであともう一歩まで近付いて来たのが、1670年にイタリアのイエズス会修道士フランチェスコ・ド・ラーナの考案した「空飛ぶ舟」だ。薄い銅箔で作っ直径6mの球を4つ作り、それの中の空気を抜いて真空にすれば舟は浮かび上がるだろうと考えた。舟には帆も取り付けてあり、進行はその帆で風を受けて行うというものであった。実際には薄い銅箔は大気圧で潰されてしまうし、風船自体が帆の役割をするので帆は不要であったが、しかし、最初に科学的に軽航空機にとりくんだ努力で、この「空飛ぶ舟」が後の軽航空機の理論的な先駆となった。
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